2012年2月5日日曜日

『ショックドクトリン‐惨事便乗型資本主義の正体を暴く』: 岡本信広の教育研究ブログ

いい本というか,議論を生む本を読んだので感想と私の意見を述べてみたいと思います。

ナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン』です。この本はやや偏った見方からセンセーショナルな書き方で議論を狙っているのかもしれません。

主張を見てみましょう。

ミルトン・フリードマンを中心とする市場経済至上主義は,@公共部門の縮小,A企業活動の自由化,B社会保障支出の縮小の3つを柱としており,災害や戦争,政変などにつけこんで一挙に市場経済改革を行ってきた(これを惨事便乗型資本主義(Disaster Capitalism)と呼ぶ)。

と言います。そしてフリードマンがいたシカゴ大学は多くの留学生を受け入れ,シカゴ学派を形成し,その弟子たちが世界の資本主義の流れを変えてきました。

チリなどの南米諸国でも多くのシカゴ学派が経済顧問として政権に入り,政変などに便乗してショック療法型の市場主義改革を実施してきたこと,東欧やロシアもビッグバンで急進的な市場経済改革が行われたきたことを紹介します。

中国の事例も紹介し,フリードマンの訪中とその講演内容とは共産党政権と利害が一致したといいます。フリードマンの,商取引の自由化が重要であり,政治的な自由化は付随的なものという観点は共産党に力を与えたと。

1989年に起きた天安門事件で,民衆を弾圧し,ケ小平は自らが目指す� ��革は資本主義であることが明らかになったと主張します(ここは社会主義市場経済化のことを指しています)。中国の市場経済は「国家による介入と暴力の結果」である,と汪暉の言葉を引用します。

このようなフリードマンの市場経済至上主義は,各国が競って惨事に便乗して導入されていきます。その結果はどうだったのでしょうか。

クラインは

富裕層と貧困層の圧倒的な格差

政治権力をもつ政府と巨大企業の癒着によるコーポラティズム

を生んだと結論づけます。その例としてブッシュ政権下でイラク戦争と戦争の民営化,ラムズフェルドとチェイニーの関連する企業の戦争請負会社の話があげられます。中国でも太子党や国有企業と政府の関係をコーポラティズムとして説明していま す。

最後にクラインは,災害から復興するのに政府の介入は必要なく,民間の活力で復興は十分可能だとまとめています。

私の感想です。

フリードマンは市場経済改革を推し進めるためには,たしかに一度に行う方がいい,また危機こそチャンスだと捉えていたと思います。ただ,それを惨事便乗型とするのはややセンセーショナルな言い方な気がします。

また市場経済がいいというのは政府の縮小であり,政府と企業の癒着でないのはフリードマンも当然同意すると思います。むしろクラインが最後に指摘するように民間の活力を活かすために政府は退出することを考えていたんではないかと。

つまりIMFの途上国に対する急進的市場経済改革や先進国で行われた市場経済改革はフリードマンの期待していた改革� �はないのでは,と思うのです。改革がコーポラティズムを生んだとするならば,それは市場がうまくいかなかったというよりも癒着や縁故資本主義を生み出したという意味では,「政府の失敗」といえる現象ではないでしょうか。

結構,刺激的な本でした。

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