2012年4月29日日曜日

とある、9人目の話。


―Nine the Ripper―

「…た…凄惨な事件…犠牲者が…」

ザザとノイズ混じりのラジオを聞き流しながら車を雑踏の中へと滑らせる。

「ナイン・ザ・リッパーの凄惨たる事件の被害者はこれで8人目。新たな被害者女性の名前はエイト・ブランケットさん23歳。彼女の遺体は自宅のベッドの上、脇腹を刺され、血まみれ状態で横たわっているところを彼女のアパートの大家が発見したということです」

繁華街に入ると大分ラジオの入りが良くなった。

「なお、やはり彼女も刃渡り15cmの刃物で脇腹を切り付けられた後、首骨をおられており、死因は絞首による窒息死とみられております。彼女の遺体の側には「Than nine, with love.」との書き置きに数字の「0」 が付け加えられたメモ用紙が発見されたとのことです。」

―Nine the Ripper―

今世間を賑わす連続殺人鬼。狙われるの被害者はみんな名前が数字が入っており、かつ被害者は様々な怨恨を買っている女性ばかり。

「ナインの次の被害者をださない為にも、警察の一刻も早い対処が必要で…」

彼…或は彼女がナイン・ザ・リッパーと呼ばれる由来はその殺害方法ではなく、「犯行手口」だ。彼は、殺害した女性の傍らにThan nine, with love.―ナインより、愛を込めて。―と書き置き、その下に数字を書き加える。それ以外はなんの痕跡も残さないその手口は古くは英国、霧の街を震撼させた殺人鬼の名に準えてこう呼ばれるようになった。

今、この町きっての有名人でありマスコミの餌であり、犯罪史に名を遺すであろう人物だ。

「さ…ニュースは…」

再び入りの悪くなったラジオを切った。代わりにあまり好きでもない歌手の歌を流す。

車の波を掻き分けて左側の道に折れる。住宅街よりも少し外れたこの道はこの黒い軽四車にはうってつけの細さだ。

最近のこの街のブーム、というのがNineの次の被害者は誰か?

という単純極まりないゲームだった。

純粋な興味の塊でしかない人々は「明日は我が身」という思考には至れないらしい。

人は、いつだって退屈を嫌う。自分は普通でありたいくせに、日々の変化を求め枯渇しメディアが騒ぎ立てるなにがしに颯爽と食いついてくる。

だから、皆して噂する。
だから、皆して問題を提示する。

さて、此処で問題です。

Nine the Ripperの9人目の被害者は誰でしょう?

車のキィを抜き、今は廃屋と化している古いビルの屋上目指して階段を上る。

「おんやぁ…?お客さん?」


私は皇帝に何を養うか

屋上の扉を押し開くとコンクリートのただっ広い景色の中に全身真っ黒の服を身に纏い、頭に黒いハットをかぶった男がいた。―さながら、不思議の国の狂った帽子屋のようだ。
男の年齢はまだ25、6歳といったところだろうか。怪しげな黒いハットの影で、男の表情はわからない。

「先客、だな。」

呟いて踵を返そうとする。

「ああ、待って待って、オレもうちょっとで飛ぶから」

「飛ぶ?」

「そ。ここ自殺名所じゃん。あんたもそうかと思ったんだけど違った?」

男は、まるで知人の名を呼ぶようにそう言った。

自殺名所、とは良くいったものだ。事実オレはここで死ぬ為に車を走らせていた。確かにここで飛び降り自殺が多いことは知っていたが、まさか二番目になるなんて思いもしなかった。

「いや。オレも、だ」

「やっぱり!」

男は、ハットをまるで古い時代の貴族のように―言うなれば優雅、と揶喩されるような手つきで脱ぎ捨てた。ハットは風に吹か� ��て、というより男が放り投げた重力に従ってビルの下に落ちて行く。

それを満足げに眺めながら男は人懐っこい笑顔をみせた。

直感的に、オレはこの男に死ぬ気は―少なくともここから飛び降りる気はないのだということを悟った。

「ねぇ、あんた名前は?」

「これから死ぬ男の名前を覚えてどうする」

「まぁいいじゃない。なんとなくだよ、なんとなく。これも縁じゃない?」

男は、オレの横に立ち、人懐こい笑顔を浮かべたまま、缶コーヒーをまるで酒でも飲みほすかのようにあおった。
オレは今更、こんな見ず知らずの男に名乗る気はカケラも無かったので男の馴れ馴れしい質問―まぁ、人との付き合い方としては間違ってはいない質問だが―に沈黙でかえした。

しばらく沈黙が続く。
寒々しいほど澄んだ空と、太陽が、馬鹿にしたように二人を照らしていた。

缶コーヒーを飲み終えた男が静かに口火を切った。

「…お兄さん。ナイン・ザ・リッパーって知ってる?」
「………ああ。マスコミがぞっこん中の殺人鬼だろ。」

「ぞっこん中って面白いこと言うね。じゃあさ、ナインの9番目の被害者は、誰だと思う?」

「さぁな。狂人の殺人鬼なんぞに興味なんざないね。」

右ポケットに押し込めていたタバコに火をつけ燻らせる。見下ろす街は相変わらず雑踏に溢れていて、相変わらず、ほどよく淀んでいた。

「狂人って、ひどいな。〈本人の目の前〉でそういうこと言わないでよ。」

「本人?」

「そう。オレがナイン・ザ・リッパー。びっくりした?」

「いや。どうでもいい」


打席何

心底、どうでもいい。今更殺人鬼を騙る奴が目の前に現れたって、それがなんだというのか。本物かどうかの真偽さえ疑うのも面倒だ。

ただ、男の張り付いた笑顔が気にくわないのは確かだ。ここから飛び降りる気もないくせに、と思ってしまうあたりよっぽどオレは死にたいらしい。

そう客観視出来るくらいには、人生に悔いは無かった、と言えるだろう。

あまり、褒められた人生ではなかったけれど。

それでも、人並に普通の生活を送っていたはずだ。

彼女に、会うまでは。

「どうでもいい、ってそっけないね。今や街中の大スターだっていうのに。」

まぁいいや。と男は呟いて、頬を撫でる風に目を伏した。

「飛ばないなら、オレが先に行� �ぞ。」

二本目のタバコに火をつけた。灰がざらざらと風に舞う。

「えー、お兄さんオレの話興味ないの?犯行動機とか。」

「ああ、残念ながら全くな」

「じゃあさ、適当に聞き流しといてよ勝手に話すから」

男は、ゆっくりと話し始めた。

「オレの本名はね。ナイン・シャーロット。最初に殺した女の名前は、ワンスロット・ウォーカー。彼女に能えた数字は8。2番目はドロシー・ドゥエ彼女に7を。3番目、シェリー・トレイ彼女に6を。4番目ケイト・ジェミナー。彼女に5を。5番目のシンク・シュタインに4を。6番目のサイス・ミュールに3を。7番目のセブン・アレクシーに2を。そして昨日殺したエイト・ブランケットに0を。」

「よく覚えてるな。」

「合コンで喋るとウケるよ」

「そうかよ。� ��

5本目のタバコに火をつけた。

「ナインの決めたこの数字、なんだと思う?」

「さぁな。」

「ノリ悪いねお兄さん。そんなんじゃぁかわいいレディを、お持ち帰りできないよ?」

「そうだな」

「初対面の男にここまで言われてこうもずっとポーカーフェイスな人初めてだ。あー、面白くない。」

「そりゃどうも。」

「んでさ、あの数字の意味なんだけど知りたい?…あーいや、お兄さん冷たいからオレが勝手に話します!」

男は相変わらず人懐こい笑顔を浮かべたままだ。どこかで見たことのある、笑顔

どこか。

そう、例えば、ニュースとかで。

「あれはね、カウントダウンなんだ。オレが死ぬ為の。オレが〈ナインの9人目の被害者〉になるために」

「…カウントダウン� �ねぇ。」

「あ、興味ある?」

「どこかで見たことあると思ってたんだがお前、心理学者だろ」

男の笑顔が、消える。


運ぶためにどのような食べ物探検隊

かといって、男の表情に驚きはない。 「プロファイリング…だったか?ナインの事件についてご丁寧にご説明してやがったセンセイ、だろ」

「……そう。正解。なんだ、案外ニュースとか見てるんだねお兄さん。」

悪びれる様子もなく、男は素直に事実を認めた。

「意外とあっさり認めるな。まぁ、それこそ〈本人〉の前で殺人鬼騙られたらすぐバレんだろ」

「本…人?」

男は、消えた笑顔をもう一度張り付けている。

「どうも。本物のナイン・ザ・リッパーです。まぁ信じる信じないもあんたの好きなように。」

小さく、息をのむ音が聞こえた。…こんな誰とも知らない男の―しかも全く現実味のない話を信じてみる気になったらしい。学者、というのは総じてこんな変人なのだろうか。

「それは、びっくり。本当びっくりした。…� �ねぇ、これは純粋なる学術的興味なんだけど……人を殺すのってどんな気分?」

「さぁな。どうも、もの忘れが激しくてね。最初のしか覚えてねぇよ。」

「最初?ワンスロット・ウォーカーのこと?」

「いや。…ミーシャ・ウ゛ィオレット。……ナイン・ウ゛ィオレットが唯一の愛した女。」

ミーシャ・ウ゛ィオレット。
誰よりも、ナイン・ウ゛ィオレットを愛した女。

8本目のタバコに火をつけた。

「なるほど。だからワンスロット・ウォーカーが8なわけ?」

「お前があの数字をカウントダウンと捉えるのなら」

見下ろす街は夕陽の朱い色でビル群を染め上げていた。

「お前は、死ぬ為に何が出来る?」

「え?」

「ミーシャ・ウ゛ィオレットの最期の言葉だ。…意味が解るか?」

男は、黙って首を横に振った。

「…どう死ぬかは、どう生きたのか、つまり生き方の証明だと彼女は言った。だから、何よりオレに殺して欲しいと言った。…彼女は病魔に侵されていたから」

支離滅裂だと自覚している。第一、初対面のこの男に話したところで、何かが変わるはずもないのに。

それでも彼女のことを、全� ��の犯行に起因する動機を語らずにはいられなかったのは、多分。

オレが生きていた、という証人が欲しかっただけなのだろう。

未練で作った残りカス、っと言ったほうがオレの性にあっている気はするが。 「狂っている、と言われれればそれまでだが、彼女は少し特殊な死生観の持ち主でね。黙って病気で死ぬなんてことは彼女にとって、つまらない理由でしかなかった。だから、オレに、〈誰より殺されたがった。〉」

9本目のタバコに火を付ける気はない。

「…だから、殺したの?」


「……そうだ。何よりその時のオレは、病魔に侵されていく彼女を見ていられなかった。…彼女が望んだ事だと建前を付けて、オレは、…彼女の命を絶った。」

…耐えられなかった。
彼女が、弱っていく姿に。

「どうして、関係のない女性ばかりを殺していったの?」

「理由が、必要だったからだ。〈恋人を殺したような狂った男〉になるために」

「そのためだけに8人も?」

「…これは殺人鬼からの単なる詭弁でしかないが…なるべく死んだほうがマシな人物を殺したつもりだ」

「まぁ、彼女達が死んで歎き悲しむ人間よりも、彼女達が死んで、救われた人間が多いことは確かだね。………ねぇ、…質問なんだけど。どうして彼女達の数字は〈ナインの9人目の被害者〉を作るためにキチンとカウントダウンされているのにどうして8人目―エイト・ブランケットだけ、〈1〉ではなく〈0〉なの?」

「…〈1〉はオレの数字だからだ。〈ミーシャ・ウ゛ィオレットによる最初の被害者〉になる� �めの数字だからだ」

言い終えた瞬間、よろめくように―壊れたフェンスに寄り掛かるように空へ体重をかけた。

傾いた体は重力に従って、滑るように落下し始める。
名残惜しげに、踵がアスファルトをなめた。

「止めろ!!」

と張り裂けんばかりの大声で男が叫んだがもう遅い。

アスファルトの地面が妙にゆっくりと近づいてくるのがわかった。

だから、オレも、同じように叫んだ。

「―親愛なるこの街の皆様、並びに模倣犯の方へ、ミーシャ・ウ゛ィオレットより愛を込めて、―」

―さぁさ、新たな悲劇の幕開けです。皆様お楽しみ、ミーシャ・ウ゛ィオレットによる2番目の被害者は、一体だぁれ?―



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