ビジュアル生理学 - 嗅覚
においはヒトを含む動物にとって非常に重要です。においによって食べ物を探したり、危険を察知することができ動物では本能行動にも関係しています。においを感じるには鼻の中の嗅覚受容器が必要です。
1.におい分子の構造
におい分子は3−20の炭素分子を含む比較的小さな物質で非常にたくさんの種類があります。におい分子が空気中を浮遊して鼻腔の嗅覚受容器に達するためににおい分子は揮発性であることがほとんどです。
2.鼻腔の構造
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嗅覚はにおいに対する感覚です。多くのひとは数千種類のにおいをかぎ分けることができます。鼻腔内の嗅粘膜には基底細胞、支持細胞とにおいを感じる嗅細胞(直径40−50ミクロン)があり、人では約4000万、においに敏感な犬では約10億の嗅細胞があります。嗅細胞の先端からは10−30本の線毛(100−150ミクロン)が生えており、におい物質にふれることによってそのにおいに対する感覚が生じます。線毛にはにおいに対する受容器があります。嗅細胞は外界にされされている神経細胞であり、2,3週間の寿命しかありませんが、基底細胞が分化して新しい嗅細胞となります。嗅粘膜は粘液でおおわれています。この粘液はボウマン腺(Bowman's glands)から分泌されます。
においに対する感覚は順応を起こしやすく、長時間同じにおいをかいでいるとしだいにそのにおいを感じなくなります。また嗅覚に対する感覚は個人差があり、高齢になるほど感覚が鈍くなります。嗅覚は客観的に化学物質を使った嗅覚試験で検査することができます。
3.嗅覚の分子機構
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嗅覚の分子機構は比較的よく研究されています。嗅覚にはG蛋白共役受容体(GPCR)が関与しています。この受容体は細胞膜を7回貫通する型でラットなどの動物では数百から1000種以上の亜型が見つかっており、ヒトでも同様の受容体が存在します。においの種類が豊富である分、その受容体の数も豊富ですが、1000種程度の受容体のにおいに対する1体1対応では数千から1万種のにおいをかぎ分けることができません。あるにおいに反応するレセプターは嗅粘膜にモザイク状に分布していることがわかりました。においの種類や強さの感覚はいくつかの受容体の組み合わせによって認識されることがわかっています。これによってより多くの種類のにおいをかぎ分けることができます。
におい分� �がレセプターを刺激することによって、細胞内のG蛋白を介してシグナルが嗅神経に伝達されます。
においに対する感覚を高めるために粘液中ににおい分子に結合する蛋白が見つかっています。この蛋白(OBP)は18kDaの大きさで、におい分子の濃縮や輸送に関与していると考えられています。嗅覚の受容体にはSNP(Single nucleotide polymorphism)が見つかっています。
4.嗅覚の伝導路
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におい物質(化学物質)が嗅覚受容器を刺激して発生したシグナルは、嗅細胞の軸索を介して篩骨板を通り、嗅球(Olfactory bulb)に入ります。その後、嗅神経を通り一部は側頭葉の嗅覚野、海馬、扁桃体、視床下部に投射しています。これらの投射はにおいに対する感情や記憶の関与しています。他の繊維は視床で繊維を変えて眼窩前頭回に投射しており、においの認識に関係しています。
嗅覚異常:においに対する感覚の異常を嗅覚異常といいます。嗅覚異常には嗅覚鈍麻(Hyposmia)、嗅覚消失(Anosmia)、嗅覚過敏(Hyperosmia)等があります。嗅覚異常は神経障害、鼻疾患、薬剤等さまざまな原因で起こります。
嗅覚検査: 嗅覚を客観的に検査するには、においのする物質をさまざまな濃度に希釈したものを鼻孔に近づけて調べます。
フェロモン:ある種の動物は嗅球(Olfactory Bulb)以外に、Vomeronasal organ(VNO)という器官をもっています。VNOにはフェロモンという動物種に特異的なにおい物質の受容器があり、フェロモンによって異性を引きつけたり、テリトリーやグループ行動に影響を与えたりしています。ラットのフェロモン受容体については研究が進んでおり、フェロモン受容体も嗅覚と同じ構造を持つ、G蛋白共役受容体であることがわかっています。ラットのフェロモン受容体にはV1RとV2Rの2グループがあり、それぞれ数十種類の類似蛋白が含まれます。V1RとV2Rはそれぞれ、違ったG蛋白に共役しています。
人間にも胎児期にはVNOのような組織が存在しますが、成長につれて痕跡化し、人間におけるフェロモンの存在は研究がすすんでいませんでした。最近、ヒトのフェロモン受容体様蛋白が見つかりました。多くのPseudogene(完全長の蛋白になれない遺伝子)の中に唯一、完全長の蛋白をコードする遺伝子が見つかりました。この遺伝子は313アミノ酸の蛋白をコードし、マウスの蛋白と比べると30−40%のホモロジーを持っています。組織発現の研究結果からこの蛋白がヒトの嗅球で発現していることがわかりました。多くの動物ではフェロモン受容体はVNOに発現していますが、うさぎなどの動物では嗅球でフェロモンを感知することができ、ヒトでもフェロモンが働いている可能性がでてきました。
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