2012年5月1日火曜日

河川の中上流部の渓相についての考察  別冊 砂礫浜を考える(静岡の前浜の場合)その1


河川の中上流部の渓相についての考察  別冊 砂礫浜を考える(静岡の前浜の場合)その1

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河川の中上流部の渓相についての考察

別冊 砂礫浜を考える(静岡の前浜の場合)その1

2011年5月3日掲載

はじめに

 先の別冊「安倍川大河内堰堤と白濁化現象について」を記述するため「静岡河川事務所」のHP(ネット上のホームページ、以下の文章でも同じように略します)を幾たびか見る機会がありました。
 その時まで知らなかったのですが、海岸線もまた「河川事務所」の管轄となっているのです。 ただし、静岡の前浜である「大浜」「下島」「大谷」「久能」「折戸」「三保」などの海岸線は「静岡河川事務所」の管轄ではありません。 何故か「静岡河川事務所」の管轄は安倍川からは離れた場所の海岸となっています。
 そのHPの表現によると、河川から流下する土砂は海岸に至って「漂砂」と呼ばれるようになります。そしてそれが、海岸線を形成する砂浜の元になっていると考えられているようです。

 そこで改めて、静岡の前浜に限らず日本各地の海岸の砂浜について調べたところ、各地の砂浜が急速に失われつつある事を知りました。もちろん私も、各種の報道によってそれらの状況を少しは知っているつもりでした。 しかし、幾つかのHPを見て、思っていた以上に深刻な状態に陥っている海岸が多い事を知りました。
 実際、静岡の前浜もそれらの海岸と同様にひどい事になっていました。海岸線のすぐ近くを通る150号線を何度も走ったことがありますから、私も、それらの海岸にテトラポットが投入されていることは承知していました。しかし、前浜の最近の状況を正確に把握していた訳ではありませんでした。

 観察のために静岡の前浜を幾たびか訪れましたが、その状況は全く驚くべきものでした。
 すでにほとんどの波打ち際がテトラポットに覆われ、列をなして並べられたテトラポットの隙間に自然海岸が僅かに残されているばかりなのです。三保の松原ごしに見る富士山の景色でさえ、その海岸の波打ち際はすでにテトラポットが設置されているのです。状況は危機的であると言って差し支えないと思います。
 今からおおよそ45年前には、それらの海岸にテトラポットの姿は全く無かったと記憶しています。

 そこで、私は砂浜の問題を深く考えるためにネットの中から資料を探し出し、さらに調査してみました。
 分かった事は、砂浜が失われているのは全国的な現象であること。それに対して必ずしも適切な対応が取られていないらしいこと。海岸や砂浜については多くの研究が行われている事。しかし、肝心かなめの、砂浜が生成され、消滅する現象の詳細は解明されていないらしいこと。 これらのことがネットを調べた限りでの成果でした。

 なかでも、どのようにして砂浜が生成されるのかが正確には分かっていない事は全く意外でした。これでは良い対策を用いることが出来ないのは当然です。
  探し出した資料の中では、「砂浜」は波によって出来る。と言うのが一般的な説明でした。また、「砂浜」を作り出す土砂は海岸流によって運ばれる、とするのも普通でした。でも、これらをそれ以上に詳しく説明した文章は見つかりませんでした。 唯一つ、ちょっと違っていたのは「砂浜」の砂は波によって打ち上げられていると言う文章でした。

 もしかすると、ネットのどこかに砂浜の生成について詳細に記述した文章があったかもしれません。或いは、ネットには無くてもどこかの研究論文や書物に記載されているかもしれません。でも残念な事に、私はそれを知ることが出来ませんでした。
 ですから、それらのことが解明されていないことを前提にして、以下の文章は記述されています。

 以下の考え方は、現段階では全て仮説に過ぎません。このような説を唱えているのは、おそらく私一人ではないかと思います。
 しかし、以下の仮説は砂浜の生成と消失を矛盾なく説明出来ています。しかも、河川との関連についても従来にはなかった考え方も含めて、現実の現象と引き比べて全く矛盾なく説明出来ます。
 この仮説によって全国の全ての場所の砂浜について説明出来るとは考えていません。しかし多くの砂浜の問題を説明できるのではないかと考えています。何より、静岡の前浜のそして三保の松原の砂浜について間違いなく説明出来ていると思います。

 ぜひ多くの皆さんにこの文章を読んで頂き、その内容を確認して頂きたいと思っています。そして、なるべく早く正しい対策を採用して、急ぎ砂浜を回復をして頂きたいと願っています。
 現在の静岡の前浜の状況は危機的です。テトラポットに囲まれて少しばかり残っている砂浜も、早くしなければ失われてしまいます。その後に残るのは無数のテトラポットと堤防からなる海岸線でしかないのです。 三保の松原も同じように、松原の根本を残して全てテトラポットに囲まれてしまうことでしょう。とにかく、急ぐ必要があると思います。

 以下に記述する文章では、「砂浜」を「砂礫浜(されきはま)」と一括して呼ぶことにします。また、同様に「砂」も「砂利」もまとめて「砂礫」と呼びます。
 「砂浜」と言ってもその砂にはいろいろあります。全くの砂ばかりの「砂浜」の所もあれば、静岡の前浜のように、砂と砂利が混じっている「砂浜」もあります。当然、砂と呼ぶのはどうかと思う砂利ばかりの浜辺もあることでしょう。ここでは、それらの土砂によって浜辺が形成される仕組みを記述するつもりです。
 「砂」も「砂利」も同じ仕組みで浜辺を形成していると考えています。

波の力と陸地
 水の移動によって土砂が移動することは、河川を考察した本編で何度も繰り返して説明して来ました。では、海で発生している波の場合はどうでしょう。もちろん、波の場合でも、水が移動していますから土砂を移動させていると考えられます。

 海岸の波が、海上を漂う流木や様々なゴミを海岸に打ち上げているのはよく知られたことです。これらの波は、海底の土砂も同様に海岸に打ち上げています。
 単純なモデルで考えてみます。
 海の中で発生した波は水の底の土砂を巻き込んで陸上に乗り上げています。陸上に乗り上げた波はその形を変えますが、やはり土砂と一緒に水中に戻っていきます。全ての波が土砂を陸上に移動させる訳ではありません。小さな波では土砂を陸上に打ち上げることが出来ないのは言うまでもありません。
 また、波によって移動するのは比較的小さな土砂に限られています。普通、岩や大きな石が波によって陸上に運ばれる事はありません。

 波と共に移動する土砂の量と、波の水量との量的関係を私は承知していませんが、次のことは言えるかと思います。
 陸に打ち上げる波に対して、陸から退去する波は重力の力が加わるので、打ち上げる時より多くの土砂を海中に引き込む力があると考えられます。重力がある分、土砂はより多く水中に落下して行くと考えていいと思います。波は陸上から土砂を海中に引き込むのが普通の姿なのだと思います。 仮に波が無いとしても、陸地の高い場所にある土砂が低い場所に移動していくのはあたり前のことです。
ですから、波は陸地を浸食するのが普通だと考えます。

砂礫浜の出来方
 「砂礫浜」の海岸で波を眺めていると、波は寄せては返す光景を繰り返しています。
 海の中から少しづつ立ち上がった波は大きくなりながら岸辺に近付き、最も大きくなった後に砕けます。砕けた後も岸辺に押し寄せようとする水の勢いは止まりません。砕けた波は泡だらけの水の流れとなって、水面より高い陸地にまで乗り上げて来ます。 やがて、陸上まで乗り上げた水の流れもどこかで勢いを止めて、再び海に戻っていきます。

 良く見ていると、陸上にまで押し寄せた海水の全てが海に戻っていくのではありません。押し寄せた海水のいくらかの量は砂礫浜にしみ込んでいます。押し寄せた海水の先端部で、ほとんどの海水が浸み込んでしまう光景を見ることもあります。
 砂礫浜の表面を流れて海に戻っていく水の量は、陸上にまで押し寄せて来た時の水量よりも少なくなっていると考えられます。戻ることのなかった海水は、砂礫浜の地中を海面とほぼ同じ高さまで浸み込んで行くのでしょう。

 このような波が見られる時に、押し寄せた波が砂礫をも巻き込んで陸上に乗り上げているとしたら、それらの砂礫の全てが海中に戻って行くことはないでしょう。
 なぜなら、陸上に乗り上げた時の海水量よりも砂礫の表面を戻って行く海水の量の方が少ないからです。海水と共に海に戻って行くはずの砂礫は、表面を流れ下る海水が少なくなるために、その内の幾らかが砂礫の表面に残されるのです。
 一回の波により残される砂礫の量は僅かな量に違いありません。でも、打ち寄せる波はいつ果てるともなく続きます。これが砂礫浜に砂礫が打ち上げられ積み上げられる仕組みです。

 波の力によって海水中で砂礫が移動したとしても、それだけでは「砂礫浜」は出来ません。どうしても、陸上に砂礫が打ち上げられなければ、そして、その場に留まることがなければ「砂礫浜」にはなりません。
 砂礫浜に堆積した砂礫は、波によって打ち上げられたまま海に戻ることなくその場に取り残された砂礫なのです。

 打ち上げられた砂礫が海に戻らなくなるのは、海水が砂礫浜に浸み込む場合だけではないと思います。打ち上げられた場所の地形によっても、砂礫が戻らなくなる事があると考えられます。 例えば、浜辺に土手状の地形があった場合では、そこを超えた海水も砂礫もそのまま水辺に戻ることはないと考えられます。

 このことをもっと広げて考えてみると、海水が浸み込むような場所や、海水がそのまま戻らない場所であれば、波によって打ち上げられた物は海に戻ることなく陸地にとどまると言えます。
  砂礫浜に打ち上げられるのは砂や砂利ばかりではありません。流木や様々な海面上の漂流物、つまりゴミも砂礫浜に打ち上げられます。
  同じことはテトラポットの海岸でも見ることが出来ます。テトラポットの上には大きな流木や大きなゴミが打ち上げられその場に残されます。 砂礫浜に砂礫が打ち上げられて残されるのも、ゴミが打ち上げられて残されるのも、全て同じ仕組みによるものだと思います。

 海底にある土砂は海流や波の力によって移動しています。でも、それらの土砂は海底でいくら移動したとしても砂礫浜を形成することはありません。それらの土砂を海底から陸地に打ち上げる波が無ければ砂礫浜は出来ません。陸地に打ち上げる波だけが砂礫浜を形成させるのだと思います。 

 さらに、砂礫浜を形成するためには砂礫が堆積した陸地がどうしても必要です。 砂礫を打ち上げる波があったとしても、岩盤やコンクリートで出来た陸地には砂礫浜は出来ないのです。打ち上げられた砂礫がその場に留まるためには海水が浸み込んで行く陸地が必要なのです。

 これらのことから、砂礫を打ち上げる波があり、その場所に砂礫の浜があった時に、砂や砂利が浜辺に打ち上げられ、砂礫浜を形成するのだと言えます。
 「砂礫浜」だから「砂礫浜」が出来る。これでは「砂礫浜」が出来る仕組みの解明になっていないと言われてしまいます。私もそう思います。

 例えば、手品師が「種も仕掛けもありません」と言いつつ左手に被せていたスカーフを取り去ると、そこにはきれいな造花が握られていたりします。もちろん見物客は種も仕掛けもある事を承知しています。
  砂礫浜は手品師に握られた造花のような物だと思います。砂礫浜が出来るためには「種」も「仕掛け」も必要です。ここでの「種」はもちろん「砂礫」です。そしてその「仕掛け」は一つだけではありません。
 ですから、ここに述べた以外の「仕掛け」について以下に考察していきたいと思います。 砂礫浜に砂礫が打ち上げられる過程は後からもう一度考えることにして、考察を先に進めます。

砂礫浜の消失
 各地で砂礫浜が消失しています。静岡の前浜も今や「風前の灯」と言っていい状態です。 砂礫浜の消失がなぜ起こるかは、前述の「砂礫浜の出来方」の延長で説明出来ます。


ゴリラが住んでいる場所の地図

 陸地に打ち寄せる波の水量が増えれば、砂礫浜に乗り上げる砂礫の量も増えることが考えられます。しかし、実際の波の様子を観察している限りでは、打ち寄せ打ち上げられる砂礫の量が水量の増加に比例して増えているとは思えません。
 一方、砂礫浜が海水を浸み込ませる量は浜にある砂礫の量に比例していると考えられます。打ち寄せる波の水量が増えたからと言って、砂礫浜に元からある砂礫の量が急に増えることはありません。
 ですから、砂礫浜に海水が浸み込む量を超えて波の水量が増えた場合には、砂礫の表面を多くの海水が流れ下るようになります。
  押し寄せる波が高くなった場合にこのような事が考えられます。この場合では、打ち上げられる砂礫の量よりも多くの砂礫が流れ下る海水と共に海に帰って行くことでしょう。

 河川の上流部や中流部の土砂が流下する時でも、一番最初に流下していくのは小さな砂や小石であることを本編で幾度も説明しました。砂や砂利は水量の僅かな増加であっても容易に流れて行きます。
 以上のことから、こんなことも考えられます。
 晴れて暖かな日の昼間に風があって波が少し高ければ、砂礫浜は大きくなります。冷たい雨の降る夜にいつもよりずっと高い波が押し寄せれば、砂礫浜は小さくなります。

微妙な条件
 砂礫浜が出来る条件は全く微妙です。小さな波では砂礫が陸上に打ち上げられることはありません。波が大き過ぎれば、砂礫は浜辺から海中に持ち去られます。 砂礫を打ち上げることの出来る強さ以上の波であり、なおかつ、砂礫を持ち去るほどには強くない波が要求されます。

 微妙な条件はそれだけではありません。砂礫の大きさにも関係して来ます。 大きな砂礫が、弱い小さな波によって打ち上げられることはありません。 小さな砂礫は、強い大きな波で打ち上げられても、それ以上に海中に運び去られ易いでしょう。
 砂礫浜が出来るためには、波の大きさと砂礫の大きさの条件を同時に満たさなければなりません。

 これらの事情に付け加えて、砂礫浜が出来る条件は、それぞれの砂礫浜の砂礫の量にも関係していることも考えられます。 砂礫浜に浸み込むことの出来る海水量が多いほど砂礫は打ち上げられ易くなると考えられます。ですから、海水を浸み込ませる砂礫の量が多いほど、砂礫浜の奥行きが広いほど、砂礫浜の高さが高いほど、砂礫は打ち上げられ易くなると考えられます。

 各地にある砂礫浜は、それぞれの場所ごとに砂礫の大きさも波の強さも異なっています。それは、各地の砂礫浜を成立させている条件がそれぞれの浜辺によって異なっているからです。 小さな砂による浜辺は湾の内側や静かな浜辺に多く見られます。砂と礫の浜や小石の浜は外海や波の荒い海岸に多く見られます。

 湾の奥に見られる干潟も同様の理由で説明出来ます。
 大きな荒い波では砂やそれより小さな土砂を早々とどこかへ洗い流してしまうでしょう。小さな波だから干潟の土砂は海岸に留まっていられます。 でもそれらの土砂は浸透性が低いので、波によって打ち上げられたとしてもたちまちに海中に引き戻されてしまいます。また、雨水によって流されることもあるでしょう。
 ここでは、海水の高さ以上に土砂が積み上げられることはありません。そうして渚に溜まった砂や小さな土砂が次第に干潟を形成して行くのだと考えられます。干潟には土砂を陸上に打ち上げて積み上げる条件がありません。

 海岸線が岩盤で覆われていることもあります。これらの海岸では、打ち寄せる波が土砂を岩盤の上に移動させたとしても、岩盤に海水が浸み込むことはありません。引く波と一緒にそれらの土砂も再び海中に戻っていきます。 岩の隙間に土砂が溜まることがあっても、やがてそれらは海中に戻って行きます。  岩盤の海岸線でも、土砂を陸上に打ち上げて積み上げる条件はありません。

 これらの事情を考えれば、波によって砂礫浜が作られるのは、特別な事情や条件のときにのみ発生する出来事だと考えられます。砂礫浜は特別な存在と言っていいと思います。

砂礫は摩耗しています
 波が砂礫浜に押し寄せたり、打ち上げられたり、海に戻っていったりする時に砂礫は移動しています。砂礫が移動すれば砂礫同士がこすれあって、それぞれが摩耗していきます。 摩耗によって生じた小さな粒子は海水中に漂っていくでしょう。
 摩耗した砂礫は次第に小さくなります。摩耗する量は僅かな量ですが、波はいつまでも続きます。

 仮に、周囲から全く遮断された場所に砂礫浜があることにします。打ち寄せる波の大きさはほぼ同じで、打ち上げられる砂礫の量と、海水中に戻って行く砂礫量も同じだとします。 つまり、周囲から遮断されて、まったく変化のない砂礫浜があったとします。この砂礫浜はいつまでもその姿のままであることが出来るでしょうか。
 残念ながら、その砂礫浜がその姿のままいつまでも存在し続けることは出来ません。波が起こす砂礫の移動によって、砂礫は摩耗して砂礫は小さくなり続けます。   砂礫が小さくなれば砂礫浜はその姿を維持する事が出来なくなります。砂礫浜の砂礫は少しづつ小さくなって、やがて砂礫浜自体が波によって持ち去られてしまうでしょう。

波打ち際の砂礫の移動
 砂礫浜に打ち寄せる波が砂礫に及ぼしている力は、砂礫を打ち上げたり、引きもどしたりする作用だけではありません。砂礫は波によって左右にも移動しています。 砂礫は波の力によって、海と陸の方向だけでなく海岸線の方向に、つまり横方向にも移動しています。

 砂礫浜に波が打ち寄せたとしても、常に真正面に戻って行く訳ではありません。これは砂礫浜で陸地に押し寄せてくる波を見ればすぐに分かる事です。海岸で見られる波は海岸線に対して平行に押し寄せて来ますが、全く平行にやって来るのでは無いようです。 海岸線に対して微妙に斜めに打ち寄せていることが多いようです。
 海岸線に対して帯状に立ちあがる波も、全ての場所で同時に砕け落ちているとは限りません。片側から崩れていったり、中央から崩れていったりしています。さらに、砂礫浜自体も波打ち際に対して全くの均一な斜面を形成している訳ではありません。

 ですから、砂礫浜に打ち上げられる海水も常に真正面に戻って行くのではなく、打ち上げられた場所より横の方向にも流されて行きます。当然、砂礫も行ったり来たりしているうちに横の方向に移動していきます。 また、砂礫浜に打ち上げられる事なく、波によって水の底で行ったり来たりしている砂礫の場合でも、同様に横方向に移動していると考えられます。

 これは先に述べた砂礫浜の消失とはまた別の問題です。新たな砂礫が打ち上げられる過程でも、波によって打ち上げられる砂礫の全てが砂礫浜にとどまるのではありません。打ち上げられた砂礫の多くが海水と一緒に海に戻って行くのです。 その時にそれらの砂礫は元来た場所ではなく左右どちらかの方向に流れていきます。 砂礫浜に元からあった砂礫が海水によって持ち去られる時にも、もちろん砂礫は海岸線の何れかの方向に移動して行きます。

 各地の砂礫浜では、波が立ちあがり砕ける方向が特定の方向である場合が多いと思います。ですから、波打ち際の砂礫は決まった方向に少しづつ移動していきます。

砂礫浜への砂礫の供給
 砂礫浜は、それがそのほかの場所と完全に隔離された状態であったとしても、そのまま存在し続けることが出来ません。砂礫浜の砂礫は、少しづつですが常に移動をしていて常に摩耗しているのです。
 ですから、砂礫浜が維持されるためには、砂礫がどこからか供給され続けている必要があります。移動していく砂礫や、摩耗していく砂礫を補うことが出来なければ砂礫浜は消滅していきます。

   各地の砂礫浜が存在し続けているのは、どこからか砂礫が供給されているからです。供給が無くなったり、少なくなったりすると砂礫浜は消滅に向かいます。
 それらの砂礫はどこから、どのように供給されているのでしょう。

砂礫の供給源
 砂礫浜に供給されている砂礫の供給源として二つの場合が考えられます。

 一つは砂礫浜自体に供給源がある場合です。
 河川によって砂礫が海岸にもたらされている場合がこれです。山地などの陸地が浸食されて生み出された砂礫が河川の働きによって海岸にまで運ばれて来ました。そして、その河口に砂礫の浜を作ります。これは、各地の河川の河口でその例を多く見る事が出来ます。
 さらに、海岸線が岩壁や崖や土手である場合でも砂礫浜を見る事があります。雨や風や波によってそれらの陸地が浸食されて砂礫を生み出し、それがそのまま岩壁や崖や土手の前に砂礫浜を作り出しています。
 この場合では岩壁や崖や土手は波の打ち寄せる海岸に面した場所に存在しなければなりません。これらの砂礫浜に供給されるのはその場所で生み出された砂礫です。

 もう一つは他の場所から砂礫が供給されていると考えられる場合です。
 河川や崖や土手から遠く離れた場所にも砂礫浜が広がっている事があります。この場合では、砂礫が元々無かった場所にまで砂礫の供給が及んでいます。各地の砂礫浜の中にはこれによって形成されている場合が多くあります。
 砂礫浜の減少や消滅が問題になっているのは、このような砂礫浜の例が多いのではないでしょうか。この場合では、砂礫がどのように供給されているのか解明されていないので、効果的な対策が取られていないようです。 静岡の前浜もそのような例の一つであると考えています。

 どのようにして砂礫浜に砂礫が供給されているのか分かれば、より良い対策を採用して砂礫浜の減少や消滅を防ぐ事が出来ると思います。
 以下の文章では、他の場所から砂礫が供給されている場合について考察していきます。

砂礫浜とその海底
 砂礫浜に大きな波が押し寄せると、浜から砂礫が流失することを記述しましたが、それらの砂礫はどこへ行くのでしょうか。また、適度な波が続けば砂礫浜が次第に大きくなることも記述しました。それらの砂礫はどこから来るのでしょうか。

 それらはいずれの場合でも、砂礫浜の前の海底の砂礫に由来しています。つまり、海底に砂礫があるから砂礫浜が出来るのです。丁度良い波が発生すれば、海底から砂礫が陸上にもたらされます。 大きな波がやって来て砂礫を海中に流し去ったとしても、砂礫浜の前の海底に戻るので、再び砂礫浜に打ち上げられる可能性があります。

 多くの砂礫浜でその前の海底が砂礫で埋まっていることは、それらの砂礫浜で遊んだことのある人なら誰で知っています。砂礫浜はその前にある砂礫の海底と一体のものだと考えなければなりません。 砂礫浜は砂礫浜だけで存在しているのではなく、その前にある海底の砂礫と一緒になって存在しています。

 波の力によって海底の砂礫が砂礫浜に打ち上げられることを説明しました。でも、打ち上げられる前の砂礫はどこにあったのでしょうか。岸から離れた海底にあった砂礫がいっぺんに砂礫浜にうち上げられる訳ではないと思います。
 岸から離れた海底の砂礫が少しずつ移動して、やがて岸のすぐ近くまで寄ってきたところを、波の力によって砂礫浜に打ち上げられるのだと思います。

 河川における水の流れと土砂の関係と同じように、海底の砂礫も、海水が移動する時にそれに伴って移動していると考えられます。そのなかで海底の砂礫を陸地の方向に移動させているのも、やはり波の力だと考えられます。
 「波」以外の力が砂礫を陸地の方向に移動させている可能性がないとは言えません。でも、砂礫浜とその海底にある大量の砂礫が「波」以外の現象によって陸地の方向に移動していると考えることは困難です。 ひとつひとつの波が移動させる砂礫の量は僅かなものだと思いますが、波は果てる事なく続きます。
 沖から陸地に向かって押し寄せる「波」があるからこそ砂礫が陸地に近付くのだと思います。

 ですから、海底から砂礫浜の浜辺に打ち上げられるのは、波が発生して陸地方向に押し寄せている場所の砂礫に限られると考えられます。波が発生しない場所の砂礫がそのままで陸地の方向に移動することはないと考えて良いと思います。
 陸地の方向に移動する力が加わらない砂礫は、言い換えると、波の発生しない場所の砂礫は、海底に落ち込んいくだけです。
 ですから、砂礫浜がその前にある海底の砂礫と一緒になって存在していると言っても、沖合の深い海底にある土砂のことは考えなくてもよいと思います。

海底の砂礫
 砂礫浜がその前の海底の砂礫よって維持されていているのならば、その海底にも何処からか砂礫が供給されていると考えなければなりません。
 砂礫の新たな供給が無ければ、海底の砂礫もやはり減少するのではないでしょうか。そして、砂礫浜もやはり維持できなくなると思います。


熱帯雨林の栄養基地はどこにあるの

長い砂礫浜
 静岡の前浜のように砂礫浜が連続している場合には、その海底の砂礫も連続して続いているはずです。この場合、砂礫が供給される場所つまり砂礫浜はひと所ではなく連続して続いています。 ですから、その場所に供給される砂礫も連続的に供給されなければなりません。砂礫浜の海底の特定の場所にだけ新たな砂礫が供給されているのではないのです。
 連続した砂礫浜の海底の砂礫は連続的に供給されている。つまり、砂礫が連続的に移動していることだと考えていいと思います。各地にある連続した砂礫浜でその幅がほぼ同じであることも、これらの事から説明出来ると思います。

 これらの考え方は砂礫浜の砂礫についての一般的な考え方と全く変わるところがありません。河川から土砂が海に排出されて、それが移動して砂礫浜を形成する、と言う考え方です。
 静岡の前浜の場合では、安倍川から排出された土砂が、河口から三保の松原まで移動しながら砂礫浜を形成していると考えられます。

 連続した砂礫浜の海底に供給される砂礫にはもう一つの条件が要求されます。波の力によって海底から砂礫浜の方向に移動し或いは打ち上げられるのは、波が発生して移動している場所の砂礫に限られます。
 ですから、砂礫は波が発生している海底に供給されなければなりません。仮に、海底の広い範囲で砂礫が移動したとしても、その範囲が波の発生する範囲と重なり合わなければ、それらの砂礫が砂礫浜に打ち上げれられることはありません。

海底の砂礫の移動
 先に記した波打ち際における砂礫の移動は、海底の砂礫にも影響を及ぼしています。
 砂礫が海底と陸地とを移動しているのですから当然です。特に、海岸線に対して打ち寄せる波の方向の異なり方が大きい場合には砂礫の移動量は多い事が推測されます。 しかし、波打ち際の砂礫の移動以外にも海底の砂礫を移動させる何らかの力があるのだと考えています。

 静岡の前浜の多くの場所では、海岸に打ち寄せる波の方向が海岸線に対して僅かしか異なりません。ですからそのような場所では、波打ち際を行き来きしながら移動する砂礫の量はそれほど多くないと思います。
 静岡の前浜のように砂礫浜が長く続く海岸では、極めて大量の砂礫が必要です。 波打ち際を行き来きしながら移動する場合では、移動する砂礫の量は多くありません。また、その移動の速度も大変遅いものです。 さらに、波打ち際を行き来きする砂礫は摩耗して小さくなっていく可能性が大きいのです。
 静岡の前浜のように砂利の混じった大量の砂礫がこの仕組みだけで移動しているとは思えません。波打ち際を行き来きしながら移動する以外の仕組みでも砂礫が移動して供給されている事を考える必要があります。

 砂礫浜とその海底の砂礫について、私は次のように考えています。
 砂礫浜はお店の店頭に陳列された商品のようなものです。それに対して、海底の砂礫は店の奥にある在庫商品であり、また同時に卸業者の倉庫に積まれたり、トラックに積まれている流通在庫でもあると思います。

 ここからは、店の奥にある在庫や流通在庫である海底の砂礫の移動について、特に静岡の前浜の場合について、さらに考察してみます。

安倍川河口の海水の流れ
 家から6Km程の距離にある前浜まで自転車で出かけたことがあります。大雨が降った2日ほど後で、風もない静かな日でした。安倍川は増水して大量の濁った水が流れていました。
 意外にも海は穏やかで、河口の西側の海水は青く澄んでいました。穏やかなその岸辺には膝の高さより小さな波が帯状立ち上がり西から東へ順に崩れていました。 3人程の釣り人が投げ釣りを楽しんでいたと思います。

 安倍川の左岸河口に立って河口の正面を眺めると、流れ込んでいく濁った水と穏やかな海水とがせめぎ合って、流れに逆らった激しい波が陸へ向かって幾つも立っていました。
 良く見るとそれらの波が立つ位置は、沖に離れるに従って東側に移動しています。それらの波は最も遠い所で、岸からおおよそ150m位だったでしょうか。海水は西から東へと流れているのに違いありません。 流れ込む濁った水は海水の流れによって次第に東側へと流されています。海水の流れが広い範囲にわたっていることも明らかでした。

 水が澄んだ西側に対して、私のいた東側は川から流れ込んだ水によって岸から沖合まで濁っていました。
 せめぎ合って立つ波と流れ込む水より離れた手前の岸辺では、西側に見られれる波より大きな波が岸近くに立ち上がっていました。この波も西から東へと順に立ち上がり崩れる帯状の波で腰位の高さでした。
 しかし、河口から300〜400m位の場所から波消しブロックが設置されていましたから、それより先は波がしっかりと立ち上がることも、崩れる事もなく波消しブロックの前で上下に揺れているだけでした。

 砂礫浜をネットで調べた時に「砂浜を作り出す土砂は海岸流によって運ばれる」との記述があったことを冒頭で言及しました。
 この時安倍川の河口で見た海の流れが「海岸流」や「沿岸流」に相当する流れなのだと思います。確かに海水は西から東へと流れていました。それも、岸から少なくとも150m以上の沖合にまでそれがある事が確認出来ました。

   安倍川河口左岸には大きな風力発電機が一基建設されています。まさしく河口左岸にありますから、遠くから眺めて安倍川河口の位置を知るには良い目標になります。
 この風力発電機の風車はだいたいの方向で南西を向いています。おそらくその方向からの風が吹く事が多いのだと思います。 そして多分、その影響で海の水の流れも西から東へ流れる事が多いのだと考えています。

海岸流
 安倍川の河口で見た時に、沖合の海水も岸近くの海水も西から東へと流れていました。実に大きな流れです。しかし、この流れが安倍川河口の砂礫を三保の海岸に移動させている主な流れだとは考えていません。

 繰り返しになりますが、波の力によって陸地の方向に移動し或いは打ち上げられるのは、波が発生して移動している場所の土砂に限られます。 静岡の前浜で発生している波は岸に近い所で急激に立ち上がる波です。ですから岸に近いところに何らかの形で砂礫が移動供給されていなければ砂礫浜が形成されないと考えられます。

 さらに、安倍川の河口にある砂礫も、三保の海岸にある砂礫も、その途中にある海岸の砂礫も、本当の意味での砂礫なのです。この海岸の砂礫浜は大きめの砂利から小さな砂まで様々な大きさの土砂で成り立っているのです。 つまり、静岡の前浜では岸に近い所で砂利を含む砂礫が移動し供給されている、と考える他はないのです。

 仮に、安倍川河口で見た海岸流が静岡の前浜にある砂礫を移動させているとしたら、海岸の様相はもっと違ったものになっているに違いありません。
 砂礫浜にある大きな土砂は砂利の大きさなのですから、それを移動させる流れはそれより小さな石や砂を容易に流し去ってしまうことでしょう。 砂礫浜が出来る前に陸地は瞬く間に浸食されて容易にその景色を変えてしまうのに違いありません。

 仮に、砂礫を移動させる強い海岸流が常にあるものではなく、不規則に発生するものだとしても、やはり納得が出来ません。
 岸辺近くで速い流れが砂利を移動させるのだとしたら、その中心の流れはもっと速くなければなりません。これは、河川の水の流れや土砂の移動の場合を考えればすぐに理解出来ると思います。 前浜の岸辺から離れた所にそれほど速い流れが発生することがあるのでしょうか。

 さらに、海岸流が砂礫を移動させている主な流れだとしたら、その砂礫の量は膨大な量でなければなりません。
 砂礫は連続的に移動しているはずですから、その途中の移動量よりもその供給源が問題となります。海岸流は先に述べましたように幅の広い流れでした。 海岸流によって岸辺近くの砂礫が移動するならば、流れのある全ての場所の砂礫も移動しているはずです。供給源であるとされる安倍川の河口の海底にそれほど膨大な量の砂礫があるのでしょうか。これも大いに疑問です。

 言うところの「海岸流」が砂礫を移動させていないと言うのではありません。海水の流れがありますから、そこには土砂の移動があるはずです。しかしそれが、静岡の前浜の砂礫浜を形成させている主な流れであるとは考えられないのです。

 波打ち際を行き来させる波の力ではなく、「海岸流」や「沿岸流」ではないとしたら、静岡の前浜海岸の海底の砂礫を移動させているはどんな力なのでしょうか。
 砂礫浜の海岸全体には大きな影響を与えない流れであると同時に、波の立つ岸辺近くに大量の土砂を移動させる強い海水の流れなどあるのでしょうか。あるとしたらそれは限定的な場所にあるのに違いありません。 付け加えると、それは見つけにくい所にあるのに違いありません。
 私は、それについて心当たりがあります。

前浜での魚釣り
 今でこそ私の魚釣りは渓流釣りだけになってしまいましたが、以前にはそれ以外の様々な釣りも楽しんでいました。砂礫浜での投げ釣りもその内の一つです。
 砂礫浜での釣りは一般的に投げ釣りと呼ばれます。明るく開放的な釣りで、多くの人々が楽しんでいます。私もこの投げ釣りが好きで幾度も通いました。小さな頃にも父親に連れられてこの釣りを楽しんだことも微かな記憶として覚えています。

 釣り糸を通す複数のガイドが付いた強くしっかりとした竿と、長い釣り糸を巻きつけたリールを用意します。釣り糸の先には遠くに飛ばすための金属の重りを付けます。重りには少しの長さの釣り糸をつけてその先に釣り針を結びます。
 釣り針に魚の好む餌を取り付けた後、反動をつけて竿を振れば、重りと一緒に餌の付いた釣り針が飛んでいきます。重りと釣り針とが遠方の海底に着いたら、糸を少し張って、重りと糸を通して伝わって来る魚の当たりを待ちます。
 砂礫浜での投げ釣りにも幾つかの方法がありますが、この方法が最も一般的であると言っていいと思います。そして、この仕掛けの方法が砂礫の移動を解明する時に重要な意味を持ったのです。

 前浜では海水が西から東へと流れることが多いのだと思います。私が記憶する限りでは、波は常に西側から東側へと順番に帯状に立ち上がり岸に近付きました。波は岸に近付くと西から東へ順番に崩れて行き、崩れた波は白い泡となって陸地にまで遡って来ました。

 前浜では波の高さによって海水の流れる早さが異なります。
 波が穏やかで膝より低いくらいの高さでしたら潮はほとんど動きません。実際には海水は移動しているのだと思いますが、投げた重りが移動することはありません。 この時、岸からごく近い所で波が発生しています。波が寄せたり引いたりする場所もごく狭い範囲です。 釣り人は、魚の当たりを待ちながら少しづつ糸を巻き取って、また餌を付けて沖に投げ込みます。
 釣り人はのんびりと釣りを楽しみます。家族連れで楽しむのにはもってこいだと言えます。でも、こんな時に大漁になることは少ないと思います。

 多くの釣果が期待出来るのは潮が少し動いている時です。 波の高さが膝から腰くらいの高さまでの時に大漁になることが多いようです。波が少し高くなると潮が動き、魚の餌への反応が良くなります。この時でも、私の知る限り潮は西から東へと流れます。 こんな時には不思議と釣り人の数も多くなります。

 波がやや高くなると、のんびりとした釣りも少し忙しくなります。波の立つ位置は岸より少し遠くなり、崩れた波の広がる範囲も広くなります。波が崩れて押し寄せた海水が一斉に戻っていった後を追って進み、なるべく沖に近づいた場所から仕掛けを投げ込むのです。
 重りは投げた場所から東へと少しづつ移動していきます。仕掛けを投げ込むのにも、あらかじめ少し西寄りに投げ、仕掛けが長い時間海中にあるようにします。
 波があまり高くなると釣り人も少なくなります。寄せたり引いたりする波に濡れないように移動しながら、繰り返し仕掛けを投げ込まなければなりません。そして、忙しい割に魚は釣れなくなります。

 さらに波が高くなって人の背丈に近い高さの時に釣りをしたこともあります。浜に釣り人の姿が見えなくても、もしかすると釣れるかもしれないと思ったのです。それに、遠くからやって来ているのですし、餌も釣具店で購入して来ているのです。 とにかく、仕掛けを投げ込んで見なければ気が済みませんでした。
 海水が大きく沖に引いて行った時に急いで走って行って仕掛けを投げ込みます。次の波が押し寄せて来る前に浜まで戻らなければいけません。私は決して上手ではありませんから、思いっきり竿を振って投げたとしても仕掛けはせいぜい50〜60メートルほどしか飛んでいきません。 波の崩れる向こう側に投げ込むのはそれほど容易ではありません。


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 こんな時、潮は大変速く流れていました。投げた重りが潮によって移動する速さは、人が歩いている位の速度だったと思います。糸を張って魚の当たりを待っている時には、仕掛けと重りが砂礫と一緒になってごろごろと移動しているような感触を糸を通じて感じました。
 仕掛けがあまりに早く移動してしまうので重りを重たい物に替えてみた事があります。重りが重たくなると仕掛けはより遠くにまで飛んでいくはずです。それに、潮の流れにも移動しにくくなるはずです。仕掛けは移動しませんでしたが、当たりを待っているうちに砂礫に埋まってしまいました。 波の移動に合わせて何度も強く糸を引いてみましたが、埋まった仕掛けが戻ってくることはありませんでした。
 ここでは海底の砂礫は確かに移動していたと思います。

前浜の砂礫を移動させている海水の流れ
 これらの経験は随分昔のことです。でも波の高さと潮の移動の関係は、しばらく前まではそれほど変わらなかったと思います。波が高い時に潮の移動が早いことは、前浜で投げ釣りを経験した釣り人なら誰でも知っていた事だと思います。

 当時私は、それらの潮の流れは沿岸一体にある海水の流れであると理解していました。つまり、言うところの「海岸流」や「沿岸流」だと思っていました。もちろんそんな名前は知りませんでしたが。波が高い時ほど潮が早く動き、潮がほどほどに動いている時に魚が良く釣れる。それで充分でした。
 海岸の砂礫の移動の事なんか少しも考えたことはありませんでした。

 でも、今になって見るとこれらの経験は貴重でした。波の高い時に経験した潮の流れこそが、前浜の砂礫を移動させている海水の流れなのです。
 残念な事に、現在の静岡の前浜ではこの流れが発生する機会はとても少なくなっていると考えられます。

 この流れは、波が発生している場所に限って発生しているのだと思います。この流れは波が高くなると強くなります。波の低い時にはこの流れはほとんど発生しません。その時の前浜の流れは「海岸流」だけだと思います。小さな砂も少し移動しています。
 波が高くなって来ると、この流れが発生します。多分、前浜の場合では「海岸流」に付加されるのだと思います。小さな砂もはっきりと移動しています。
 さらに波が高くなると、砂だけではなく砂利も、やがて流れの中にあるほとんどの土砂が移動し始めると思います。

 この流れが「海岸流」や「沿岸流」そのものではないことは確かですが、全く無関係だとも考えられません。「海岸流」や「沿岸流」による影響を受けていると考えています。

 この流れは、前浜の砂利を移動させるのには充分な強さだと言えます。また、この流れは岸辺にごく近い場所に限られたものであると考えられます。
  重要なことは、前浜の砂礫を移動させる流れがあり、その流れの存在が砂礫浜に関連する事柄を矛盾なく説明出来るものであるかどうかです。この流れは、前浜の砂礫を移動させて砂礫浜を形成するのに必要な条件を問題なく満たしていると思います。

 これらのことから、静岡の前浜における砂礫の移動の仕方は三つに区別出来ると思います。

 一つは、岸辺から沖合まで広い範囲に亘って流れていると考えられる「海岸流」によるものです。この流れは岸辺では弱いものとなっていますから、小さな砂だけが移動していると思います。
  二つめは、岸辺の波によって行ったり来たりしながら移動するものです。この移動では砂より大きな砂利も少しは移動している事でしょう。でも、大量の砂礫が移動するとは考えられません。また、その移動の速度はゆっくりとしたものです。
  三つめは、波が作り出した流れによる砂礫の移動です。この場合では大きな砂礫を含む大量の砂礫が移動していると思います。この移動は常にあるのでは有りませんが、条件がそろった時には、大量の砂礫が一気に移動します。 そして、この砂礫の移動こそが静岡の前浜の砂礫浜を成り立たせているのだと思います。

砂礫を移動させる流れはどうして発生するのか
 静岡の前浜では、波が高くなると砂礫を移動させる流れが発生すると説明しました。でも実は、この説明は不十分なものでした。正確に言うと、ある条件に当てはまった波が高くなると、砂礫を移動させる流れが発生するのです。 そして静岡の前浜では、ある条件に当てはまった波はごく普通に発生していました。

 ある条件とは波の形です。 砂礫浜で生じている波は、岸辺に向かって帯状に発生していることが多いと思います。帯が長いか短いか、或いは幅が広いそれとも狭い幅なのか、それぞれに場所や状況によって異なっていると思いますが、この帯状であることがどうしても必要です。
 そして、その帯の立ち上がり方と崩れ方が問題です。片側から順番に帯状に立ち上がり、立ち上がった片側から反対方向に向かって順番に崩れていく波が必要です。
 この条件で流れが発生します。でも、これだけではその流れは弱いものです。

 この流れが強くなるためには、さらに条件が必要です。
 その波は比較的浅い場所で発生していなければなりません。波が浅い所で生じる場合ほど流れは強くなります。
 もうひとつ、その波は繰り返して次々に発生していなければなりません。次から次に発生する波の間隔が短いほど流れが強くなります。
 これらの条件がそろって、なおかつ波が高くなれば、流れが強くなり砂礫を移動させることが出来るようになります。付け加えた2つの条件は、静岡の前浜では、波が強く高くなれば自然に実現されていた条件でもあります。 海水は、波が立ち上がった所から崩れていく方向へと順に流れます。
 この流れは、条件がそろった波のある場所でのみ発生しています。

流れの発生する理由
 この流れが発生する理由は難しいものではありません。簡単な理由で発生していると思います。
 砂礫浜の波は単独で生じているのではありません。必ず連続して発生しています。一つの波が生まれて大きくなると、その沖には次の波が準備されています。

 波が大きく成長すると、次の波との間に谷間が出来ます。波が発生している時に、波の内部で移動する海水は高くなった部分だけではありません。 低くなった谷間の部分でも海水は移動しています。
 水は高い所から低い所へと流れ込むのが普通です。でも、波の裏側の谷間より陸地側にある海水は緊張してさら上昇して行くところですから、後ろに戻って低い谷間に移動することはありません。 谷間より沖にある海水もこれからさらに上昇しようとしています。谷間に向かって進んでいますが、それ以上に高く上昇していきます。 この谷間を埋めようと移動することが出来るのは、波が立ち上がっていない場所の海水だけです。
 つまり、帯状の波が立ち上がっていない谷間の横の海水だけが谷間に流れ込みます。その反対側の谷間の海水はこれからさらに高低差が大きくなるように動いていますから、やはりそこからは流れ込みません。
 この海水の動きは波が浅い場所にある時ほど強くなります。波が深い場所で移動している時は、波の横からだけではなく海底の方向からも海水が移動して来ると思います。

 この波の谷間では、崩れようとする波の裏側に横から流れ込んだ海水が、次に崩れようとする波の裏側へ連続して流れ込んでいきます。ですから、この流れは波の裏側で連続しています。
 谷間が最も深い時、つまり、崩れる寸前の波の裏側の谷間でこの流れは最も早くなります。波の崩れは波が立ち上がった所から反対方向へと順番に進みますから、波の崩れと同じように最も早い流れも順番に進みます。 一度動き出した海水の動きが突然止まることはありません。 流れが弱くなり止まる前に次の波がやって来ます。そこでも同じように海水の流れが発生します。
 同じような波が続く限りこの流れは続きます。ですから、繰り返し押し寄せる波とその次の波との間隔が短かくて谷が深いほど流れは強くなります。

 ここに述べた、流れの発生する理由は、私が机上で考え推測したものです。実際の計測もなければ実験もありません。ですから、違っている可能性も多いにあります。 ぜひ、多くの専門家の皆様に調べて頂き、この流れの存在とその発生理由を確認して頂きたいと思っています。

波裏の流れと砂礫の移動流れの発生する理由
 静岡の前浜では波が高くなると波の裏側に流れが発生して、それが砂礫を移動させていることを説明しました。もちろんこれらは、現段階では仮説に過ぎません。しかし、現実の様々な状況を矛盾なく説明出来ます。

 では、波裏に流れが発生すると砂礫はどのように移動するのでしょうか。再度おことわりしますが、以下もあくまで推測による記述です。

 波裏の流れによる砂礫の移動をたとえると、屋根なしの貨車が長く連結して単線を走る様子を想像すると分かりやすいと思います。それぞれの屋根なしの貨車には動力が付いていて機関車が無くても走ります。
 波が高くなって波の裏側に流れが発生すると、この列車は急に姿を現します。そして長く連結した貨車はそれぞれの場所にある砂礫を積みこんで動き出します。
 それぞれの貨車は積みこむ砂礫の量をその速さに応じて瞬時に変えることが出来ます。ゆっくり走る時は積み荷は少なく小さな砂が多いのです。早く走ると積み荷も増加して大きな砂利も積載できるようになります。
 ゆっくり走っていた貨車の速度が速くなると、走っていたその場所で大きな砂礫も瞬時に積み込まれます。早く走っていた貨車が速度を落すと、積み荷の中から大きな砂礫が振り落とされます。流れが無くなると貨車は急に消え去ります。 貨車の速度と積み荷の量を制御するのは波の高さと発生する波の頻度です。

 静岡の前浜では、波が高くなるとこのような列車が走っていました。岸のすぐ近くを走るこの列車は長く連結されています。安倍川の河口から三保半島の先端まで一輌も欠けることなく続きます。正確には続いていましたです。
 安倍川の河口では次から次へと貨車が発車し続けます。 三保半島の先端ではやってきた貨車が次々に砂礫を降ろして消え去ります。始発の安倍川河口でも、途中の海岸でも、終点の三保半島でも、積み荷の砂礫の量を制御しているのは波裏の流れの強さです。
 長い海岸の一部にだけこの列車が走る事もあるかもしれません。でもその場合は、その積み荷はきっと少ないと思われます。そしてその列車が走る期間も短いと思われます。
 静岡の前浜の長い砂礫浜では、どの場所でも同じような条件で同じような波が発生していたはずです。

 この砂礫の移動で注目すべきところは、それが連続している事と、岸に近い所でそれが発生していることです。
 この移動は連続していますから、供給源から砂礫が供給されなくても、移動が止むことはありません。ですから、供給源からの供給が無い状態が続いた場合、砂礫浜の前の海底の砂礫が減少していくことになります。供給源からの砂礫が少なくなった場合でも同じことが起きるでしょう。

 この海水の流れと砂礫の移動は、河川の中上流部でのそれに似ています。全面をコンクリートで囲まれた水路と異なり、砂礫の多い自然の河川では、水の流れも土砂の移動も流れに対して一様ではありません。 流れの中央の流芯の水が早く流れ、岸近くではその流れも緩やかなものとなります。土砂もそれに従って移動しています。
 波裏の流れの場合でも、狭い幅の流芯に乗った砂礫は早く遠くまで運ばれますが、流芯から離れた砂礫は少しづつ移動していきます。岸近くに運ばれた砂礫は砂礫浜に打ち上げられる機会が多く、反対に沖に近く運ばれた砂礫は海底に落ち込んでいく可能性が増えます。
 この流れによる砂礫の移動量はかなり多いのではないかと思われます。でも、そのわりに砂礫浜に打ち上げられる砂礫はそれほど多くないように思われます。多くの砂礫が移動しても、砂礫浜に打ち上げられるのはその一部で、多くの砂礫は海底に落ちていくのだと考えています。

 ここまでは、主に静岡の前浜において砂礫を移動させる流れについて考えて来ました。でも、これだけでは静岡の特別な例だと思われてしまうかもしれません。ですから、砂礫を移動させる流れとそれを生じさせる波について、もう少し広い範囲で考えてみます。

波の形
 先ず、波裏の流れを生み出す特定の形の波について考えてみます。
 実は私は、各地の海岸を知っている訳ではありません。私が釣りをしたり歩いたり見たりした事のある海岸はごく限られた場所に過ぎません。その多くは駿河湾の西岸です。ですから、各地の波がどのように立ち上がりどのように崩れるのかほとんど知らないと言って良い状態なのです。


 そこで、ネットで波の形について調べてみました。
 ここで言う波の形は海面から立ち上がった姿を指しますが、ネット上の写真や動画では色々の形の波を見る事が出来ました。 砂礫を移動させる形の波については、サーファーのページで同じような波を多く見ることが出来ました。写真だけでなく多くの動画もありました。
 そうです、この波の形はサーフィンが出来る波の形と同じです。但し、サーフィンが出来る波だからと言っても、それが砂礫を移動させる流れを発生させているとは限りません。
 さらに、このような波の様々な形態についてネットの記述を探してみました。波がどのように立ち上がりどのように崩れるかを記述したり、分類したりした文章は、私が探した限りではサーフィンに関連するページに限られていました。 サーフィンの解説ページの幾つかにはサーフィンが出来る波に関してその形状や各部の名称について記述がありました。

 サーフィンの出来る波が世界中にある事は多くの人の知るところです。またそれらの場所において、いつでもそのような波が発生している訳でもない事も知られていると思います。
 海岸の砂礫を移動させる流れを発生させる波は一般的に見られる波であり、また、いつでも見る事が出来る波でも無い事も確かだと思います。
 波裏に流れを生じさせる波は、静岡の前浜に限って発生しているのではないと考えていいと思います。

砂礫浜の構造
 砂礫浜の構造については随分研究されています。各地の砂礫浜はその形状により分類されていて、それぞれの砂礫浜の特徴が詳細に検討されています。
 砂礫を移動させる波裏の流れについても、これらの分類や説明を参照すると、より分かり易くなると思います。私は、ネットを検索する事によりこれらの研究について知ることが出来ました。これらの貴重な研究の成果を容易に利用出来るのは、全く幸運で、ありがたいことだと思います。 先人の研究者におおいに感謝するものです。

 ネット上に見ることが出来るそれら研究成果のうち、ここで紹介するのは
「砂浜海岸の生態と保全」(独立行政法人水産大学校 生物生産学科 沿岸生態系保全研究室 教授 須田有輔)
のページです。 簡潔にして明瞭、大変分かりやすいページだと思います。とは言うものの、私自身が理解出来るのは解説図面と写真と説明文章の一部に過ぎません。内容が専門的なので全てを理解することは出来ません。
 ですから、私が参照するのはページの中の一部分です。ぜひ、リンクするページを開いて参照して頂きたいと思います。

 このページの中で私が注目したのは「1.2.2 砂浜タイプ」の記述と、その解説図である「図6 3タイプの砂浜海岸」の図です。
 静岡の前浜は、まさしくこの中で言う「反射型砂浜」に属します。 岸から沖へ向かって水深が急激に深くなる。砂礫浜の砂の大きさが粗い。沖からやってきた波は岸近くで急に立ち上がり直ぐに砕けてしまう。静岡の前浜の特徴をそのまま解説しています。

 ここで解説されている「反射型砂浜」が各地にあるとしたら、なおかつ、片側から崩れていく帯状の波が発生しているとしたら、そこでは砂礫を移動させる波裏の流れが発生していると考えていいと思います。

遠州浜の「ナガラミ」
 「ナガラミ」と言うのは貝の名前です。初夏の頃、静岡の魚屋さんやスーパーの店頭に並びます。多くは灰青色をして奇麗な模様を持ち、少し扁平で直径3〜4cm位の大きさをしています。 静岡では良く知られた美味しい巻貝です。酒の肴や、ちょっとしたおかずや、子供のおやつに好まれています。

 その「ナガラミ」に関する記事が、海産品を紹介する地元紙のコラムに掲載されたことがあります。
 それによると「ナガラミ」と言うのは地方名で正式和名は「ダンベイキサゴ」と言うのだそうです。その奇妙な名前が印象的で記憶に残っているのですが、もうひとつ記憶していることがあります。

 駿河湾の西側で、太平洋に直接に面した海岸が遠州浜ですが、「ナガラミ」は遠州浜でも取れるのです。その遠州浜では「ナガラミ」の漁場がひと晩で大きく移動してしまうことがあると、漁師さんの話として紹介されていました。
 調べると、「ナガラミ」は水深5〜30m位の砂地に生息していると言うことです。その漁の方法は知りませんが、岸辺に近い浅い場所で採取しているのに違いないのです。

 遠州浜は静岡の前浜ほどではありませんが、やはり岸から沖に向かって急速に深くなっています。前述の「反射型砂浜」に分類される海岸だと思います。
 自らの移動手段を持たない小さな巻貝が、ひと晩で大きな距離を移動してしまうのは、波の裏側に発生する強い流れによるのものだと考えられます。

 私は、各地の海岸を知っている訳ではありませんが、波裏に発生して砂礫を移動させている流れは、多くの海岸で発生していると思います。

砂礫浜が出来る理由
 砂礫浜だから砂礫が打ち上げられると説明しました。そのために幾つかの条件が必要である事も記述しました。手品師が造花の花束を取り出すまでの仕掛けの多くを記述してきたつもりです。そこで、砂礫浜が出来る理由について改めて考えてみます。

 砂礫浜が出来るためにはその海岸に砂礫が存在していることが必要です。海底の砂礫は陸地に砂礫浜がなければ打ち上げられることはありませんから、それら海岸の元々の砂礫浜は陸地に由来する砂礫によって形成されていなければなりません。これには三つの状況が考えられます。
 一つは河川による砂礫の堆積です。
 もう一つは海岸に面した陸地の浸食によって生じている砂礫の堆積です。
 そしてもう一つは、上記二つの原因によって生成した砂礫浜の隣接地が砂礫浜の拡大により砂礫浜となった場合です。

 河川による砂礫の堆積の例は、安倍川の場合のように多く見る事が出来ます。
 いずれも河川の河口に砂礫の堆積が生じ、それが砂礫浜を形成します。河川から大量の砂礫の供給が続けば、砂礫は移動をして、砂礫浜も少しづつその面積を広げます。やがて河口を離れて長く続く砂礫浜になります。
 複数の河川の河口が存在する海岸では、それぞれの砂礫浜が接続して、より長い距離に亘って砂礫浜が続くこともあります。河口より遠く離れた砂礫浜の終端であったとしても、砂礫の移動による供給が続く限り砂礫浜は存在し続けます。

 砂礫の供給源が河川の河口でなくても砂礫の供給が継続して続く場合であれば、同様に砂礫浜は広がると考えられます。
 柔らかい岩壁や崖や土手などでは、それらの岸辺の岩壁や崖や土手の前面に砂礫浜を見ることがあります。このような場合では、岩壁や崖や土手などが浸食されて生じた砂礫がその前面に堆積をして、そこに浸食によって生じた砂礫が打ち上げられると思います。 供給される砂礫の量が多ければ砂礫浜はその面積を広げるでしょう。
 砂礫の供給が多くない場合では砂礫浜が大きくなることはありません。波打ち際に近い所が砂礫浜であっても、その沖に岩礁や石や岩の海底が広がっている場合もあります。陸地からの砂礫の供給が少ない場所の例だと思います。

 雨や風や波による浸食量が少ない硬い岩壁の海岸では、砂礫が堆積する機会は少ないでしょう。
 このような海岸では岩壁の谷間や入江など限られた場所に砂礫浜を見ることがあります。陸地で浸食された砂礫が小さな川や沢や谷によって運ばれ、入江や窪地に集積して砂礫浜を形成していると考えられます。
 このような砂礫浜が継続して存在するためには、陸地から砂礫が供給され続けるか、岩石海岸自体による供給や、岩石海岸を通過して砂礫が移動して供給される必要があります。

 これらいずれの砂礫浜の場合でもその砂礫浜が存在し続けるためには、それらの砂礫が継続して供給され続ける必要があります。河川によって砂礫が供給されている場合は、それは比較的容易だと考えられます。

 元々の供給源より離れた場所にある砂礫浜では砂礫の供給は極めて重要です。供給が無くなったり少なくなったりすれば、砂礫浜は容易に消滅します。
 これらの砂礫の供給は砂礫の移動によって実現されています。この、砂礫の移動を引き起こす要因はそれぞれの海岸によって異なります。私のこの文章で明らかにしたものに限れば、それは海岸流であり、渚を行き来する砂礫の移動であり、波裏に発生する海水の流れがそれです。 これらは「反射型」の砂礫浜で生じている砂礫の移動です。
 「中間型砂浜」や「逸散型砂浜」では、私が考察したもの以外にも砂礫を移動させている現象があることも考えられます。

 これらの事を簡単に記述すると以下のようになるかと思います。
 海岸の波打ち際に砂礫が堆積している時に、波によって海底から砂礫が打ち上げられて砂礫浜が形成されます。陸地や海底からの砂礫の供給が継続すると砂礫浜は維持され、供給量が多ければ砂礫浜は拡大します。また、砂礫の供給が無くなったり減少したりすれば、砂礫浜は消滅します。

砂礫の供給量が減ると砂礫浜は消滅する
 砂礫の供給量が減ると砂礫浜は消失していきます。この問題についてもう少し考えてみます。但し、アマチュアの私は、海の中を観察したことは無いのです。これも机上での全くの推論である事を予めご承知下さい。

 もう一度「砂浜海岸の生態と保全」(独立行政法人水産大学校 生物生産学科 沿岸生態系保全研究室 教授 須田有輔)
を開いて参照頂ければ分かり易いと思います。
 静岡の前浜のような「反射型」砂礫浜においては、波が発生するのは海中の傾斜の中にある「ステップ」と呼ばれる「棚」の所からです。それより沖では波が大きく立ち上がることはありません。
 「反射型」砂浜では「ステップ」の所から波が急激に立ち上がっています。つまり、先に説明した「波裏の流れ」もこの「ステップ」の上で発生していると考えていいと思います。ですから、砂礫の連続的移動も「ステップ」の上で行われています。

 砂礫の供給が多い時には「ステップ」も大きくなるのだと思います。砂礫の堆積量が増えるので「ステップ」の幅も広がり、その高さも高くなり水面に近付くのだと思います。浅い所に大量の砂礫があれば、砂礫浜に打ち上げる砂礫の量が増えるのではないでしょうか。
 逆に砂礫の供給量が減って来ると「ステップ」は小さくなっていきます。その幅は狭くなり、その高さも低くなります。適度な波が発生したとしても、砂礫浜に打ち上げる砂礫の量は減って行くと思います。
 さらに、砂礫の供給が全くなくなれば「ステップ」も消滅するのではないでしょうか。そうなれば、波があったとしても砂礫を打ち上げることは無くなります。波は海岸の砂礫を海底に引きずり込むばかりです。

 これらの仕組みは「反射型」の砂礫浜を回復させる方法を考える場合に一つの示唆を与えてくれます。
 「反射型」の砂礫浜を回復させるためには、砂礫の移動する上流からその回復を図っていかなければなりません。消滅しつつある砂礫浜の途中で大量の砂礫を投入したとしても、それは海底に落ちていくばかりです。砂礫の供給は連続していなければなりません。

 「反射型」砂礫浜において、砂礫の供給量が減ると砂礫浜が消滅する仕組みを考えましたが、「反射型砂浜」以外の「中間型砂浜」や「逸散型砂浜」でも同じことだと思います。
 波の立ち上がっている所から陸地までの間にある砂礫が波によって打ち上げられるのですから、それらの場所の砂礫が減少すれば、砂礫浜の砂礫にも減少する可能性が生じます。波の立ち上がっている所での砂礫の供給が少なくなれば、砂礫浜は減少していきます。

 「反射型砂浜」「中間型砂浜」「逸散型砂浜」いずれの場合でも、海中の砂礫がどれだけ減少すれば、砂礫浜が減少を始めるのかは、それぞれの砂礫浜によって異なると考えられます。それぞれの場所の砂礫の大きさや波の大きさによって違うと思います。

砂礫浜を考える(静岡の前浜の場合)その2へ続く

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